僕の知的生産術 (5) 自己プログラミング

自分自身のための知的生産の方法を確立する。そのために、まずは知的生産の基本的なテーマと技法を理解する。

そういう動機で「知的生産の技術」を読み返し、次いで「エンジニアの知的生産術」に取り掛かっているわけですが…。これはもっと早く気付いても良かったことだと思うんですが、「知的生産」の指す範囲ってものすごく広いですね。

「知的生産の技術」では

人間の知的活動が、なにかあたらしい情報の生産にむけられているような場合

としていて、「エンジニアの知的生産術」では

知的生産とは、知識を用いて価値を生み出すこと(略)自ら新しい知識を生み出すことが、価値の高い知的生産のために重要

としています。これって人生そのものではないでしょうか。

たとえば昨年のベストセラーは「人は話し方が9割」だそうで、僕は読んではいないのですが、おそらく情報の出力の形式についての話だと思うと「知的生産の技術」で扱われている原稿の書き方の話と近く、つまり知的生産に関する本だといえます。

「2021年最も読まれたビジネス書ランキング」はトップ10は『「すぐやる人」と「やれない人」の習慣』『学びを結果に変える アウトプット大全』『人生を変えるモーニングメソッド』『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』『本当の自由を手に入れる お金の大学』『1分で話せ』『科学がつきとめた「運のいい人」』『人は話し方が9割』『やめる時間術』『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』だそうですが、このうち「お金の大学」と「運のいい人」はちょっとわかりませんが、それ以外はいかにも知的生産していそうですね。

そうだとすると「まずは知的生産の基本的なテーマと技法を理解する」のは現実的にほとんど不可能で、そういう網羅的なアプローチで知的生産全体をカバーしようとするのではなく、自分が本当に必要とするサブトピックに絞った方がよさそうです。


ところで「知的生産の技術」にも「エンジニアの知的生産術」にも共通して、メタ的な視点に立って自分の取るべき行動を手順書にまとめ、それに従って粛々と実行する姿勢があり、これが重要なのではないかと思い始めています。アルバイトのためのマニュアルを自分向けに作成しているイメージです。

別の言い方をすると、自分自身をマシーンと捉えて、その動作のためのプログラムを書いている、そしてそれを継続的にメンテナンスしているという印象です。何かをするたびにスクリプトを書き捨てるよりも、定期的に行う作業には丁寧なスクリプトを書いておく方が良いですよね。非定形のアイテムについても、適切にモジュール化されたライブラリを整備しておいて、できる限りその組み合わせで実現する方が良さそうです。

ふつうは自己のプログラムは頭の中にだけ存在すると思うのですが、そうすると細部が曖昧だったり、忘れてしまったりしますよね。明文化することに価値がありそうです。

たとえば僕が最近行った定期的なタスクのひとつに論文の査読があります。入力は論文、出力は査読コメントなわけですが、その手順は毎回適当にやっていました。となると時々困るんですよね。たとえば今回は、おそらく書き方が良くないため内容を理解するのが難しい論文に当たりました。こういうときは頭から丁寧に読んで、わからないところと、何故わからないかをきちんと記録していけばいいのですが、それを思い出すまで「全体をさっと見ることを繰り返せばぼんやり理解できるはずだ」などと必要のない苦労をしました。英文の書き方もそうですね。まず日本語で完成形を作り、DeepL に放り込んで雑に英文にしたのちに Grammarly のエディタ上で整え直すのが効率が良いのですが、そのことをすっかり忘れていました。

というわけで、自分自身の作業の手続きを明文化すること(自己プログラミング)を意識して、何か取り掛かる前にその手順を書き出すことを、少しずつ試し始めてみています。