すずめの戸締まり

見ました。映画の日で1000円だったから混むかなと思ったんですけど、新宿ピカデリーの最終回で席は1割も埋まっていないかなという感じでした。

結論だけ書くと not for me です。


ネタバレには配慮せず、見た人に向けて書きます。

まず、主張が曖昧というか、たくさんのことを同時に言おうとし過ぎて結局どれ一つとしてきちんと語り切っていないですよね。絵が綺麗なのは見せたい、派手なシーンも見せたい、成長も見せたいし冒険のワクワク感も出したいしラブストーリーだし震災についてのメッセージもあるし家族や神についても扱っている。わかりました、それで本当に大事なのはどれなんですか、という気持ちになります。

震災の取り扱いについては賛否がはっきり分かれるようですが、僕ははっきり否の立場です。大ヒット映画監督という立場上「愉快だったな」という印象の作品を作るしかないだろうと思うわけですけど、そういう風に単に気軽なエンタメとして消化するには震災というテーマは重すぎるんですよね。僕や僕の周囲は幸運にも被災していないのですが、それでも終盤は「ああこの画面は気仙沼の火災みたいだな… つらいな…」となり、その上でなんかいろいろ喋られても「いやそんなことより今つらいから」と思ってしまうんですよね。そのことをどう乗り越えるかについて、少なくとも僕に響くメッセージはなかったと思います。


ところでこれは村上春樹の「かえるくん、東京を救う」と似てますよね。

村上春樹に人知れず震災を防ぐ話があったな」くらいにしか認識していなかったのですが、いくつかのレビューによれば、かえるくんは「みみずくん」と戦ったようですね。まったく同じじゃないですか。

村上春樹は1995年を境に作風が少し変わります。それは、村上春樹の出身地である神戸に大きな被害をもたらした阪神淡路大震災と、村上春樹が住んでいた東京で起きた地下鉄サリン事件がきっかけです。そこから社会への関心が強まってゆき、震災を扱った「神の子どもたちはみな踊る」やカルト宗教を扱った「1Q84」が書かれるわけです。そして、それらの作品は基本的に not for me なんですよね。

以前は主に個人の内面にフォーカスしていたが、徐々に社会的なテーマを扱い始める… という点で深海誠と村上春樹はもしかしたら共通しているのもしれません。そうだとしたら、それは僕の好みの変化ではないので、少し残念です。