東京日記

川上弘美の「東京日記 (1+2)」を読みました。小説ではなく、日記ブログを書籍化したようなものです。

川上弘美はけっこう好きな作家なんですけど、この「東京日記」はちょっと危ないかなと思っていたんですよね。東京生まれ東京育ちの人なので、東京人間の自意識みたいなものが乗っていたら嫌だなと。俺達の東京はすごいんだぜ、あるいは東京って意外とショボいんだぜ、みたいな。そもそも「東京日記」ってタイトルがまず良くないじゃないですか。ただの日記ではなく東京だからこその何かがある、という意図を感じますよね。

でも読んでみるとまったくそんなことないんですよ。たとえば下北沢に演劇を観に行った話が出てきて、こういうときって下北沢がどんな街であり、それが自分にとってどんな意味を持つかといったことをつい語ってしまいそうじゃないですか。ところがそういう記述はほとんどなく、ただ演劇を観に行き、それはたまたま下北沢という名前の土地で行われていた、それだけなんですよね。「東京日記」というタイトルは単に「東京人」に連載していたから。

なんとなくなんですけど、半分くらいは意図的にそう見せてるんじゃないかと思うんですよね。本当の東京の人は、(たとえば新海誠の描く東京が地方出身者の目線と不可分であるのと対照的に、)東京そのものに特別な意識を込めずにさらっと流すことができる。これってなんだかズルいですよね。