僕の知的生産術 (4) 「知的生産の技術」第6-11章

「知的生産の技術」の後半では読み書きを取り上げている。国民全員がプログラミングを学ぶ時代が来ると予言するなど1969年に出版されたとは思えない慧眼を見せつける本書だが、後半ではやや勢いが落ち、漢字はタイプライターで入力できないので日本語から漢字を廃止すべきだなど、時代を強く感じさせる議論が目立ってくる。


第6章では本を読む技術を提案する。本を読むのは自分の考えを発展させるためであって、単に情報を得て死蔵するためではないので、本を読むときの自由な着想を妨げないこと、後に役に立つことだけを記録することが基本方針である。

提案手法の具体的な流れは以下の通り。 1. 最初から最後まで全部読む。全体の流れをつかむことが重要なので、飛ばし読みはしない。重要なところに線を引き、また欄外にメモを取る。 2. 頭から、線を引いたところだけを読み返す。それによって内容や着想を頭の中でまとめ直す。 3. 線を引いたところは、内容を理解する上で重要なところ(作者の文脈)と、内容に触発された着想(自分の文脈)に分けられる。後者だけをカードにする。

気になること。 - 全体を読まないと作者の意図が伝わらない、というのは自分の場合には当てはまりにくいのではないだろうか。たとえばビジネス書は同じことを何度も書いていたり、著者が全体の流れをそもそも意識していなかったりする。よく知っている分野の論文では序論や関連研究の章を読まなくても内容の理解に問題がないこともある。なので、全体を読むことにこだわらなくてもよいだろう。 - 内容は一切記録する必要がない、思い出したければまた開いて下線部だけ読めばいいのだ、という話だけれどそれは面倒なので簡単なまとめくらいは作っておきたい。


第7章では、日本語を書くこと、特に手書きでは時間がかかりすぎることへの対処を述べる。とはいえ和文タイプもない時代の話なので明らかに今では問題にならない。PCで文章を打っていてその速度が思考よりも遅すぎると思うことはほとんどないし、そう思う人(たとえば勝間和代)は音声入力でこの問題を解決している。


第8章は手紙の話。

手紙のテンプレの文章を作っておいて、そのコピペと組み合わせで乗り切れと書いている。これはやった方がいいですね。


第9章では業務報告としての日記を提案する。おもしろいと思ったことは別にカードにしているわけなので、日記にはそのようなことは書かず、それらへのポインタだけを書くことで、時系列的なインデックスとして機能させる。

ということらしいんだけど、そのインデックスを作っておくとどう嬉しいのかはよくわからなかった。著者はフィールドワークによく行くらしいので、そういうときには役に立つのかもしれない。ふつうの人には必要がないんじゃないだろうか。


第10章は原稿の書き方、特に体裁の話を述べている。現代では LaTeX のテンプレートなどを用いればまったく問題がない。


第11章では文章を書くことを取り上げる。文章が書けないときは実際には考えがまとまっていないのだ、という指摘が鋭い。書きたいことの破片(語や句レベル)を紙に書き出して、関連するものをホチキスでつなげていくことで考えがまとまるそうだ。それは確かにそうかもしれないが、やや面倒なので、品質が特に要求されるような文章(なんだろう?)でのみ運用することになりそう。


着想を効率的に得ることができる読み方(たとえば「知的複眼思考法」にあるようなこと)や、文章のクオリティを上げる方法(たとえば「理科系の作文技術」「日本語の作文技術」にあるようなこと)はほとんど扱われていないが、実際にはかなり重要なスキルであり、他で補う必要がありそう。